レポート~先進事例から学ぶ人材確保戦略

研修・講座

令和7年6月16日(月)、長崎県社協が事務局を務める「長崎県社会福祉法人経営者協議会」が、人材確保戦略をテーマに研修会を開催しました。
そのエッセンスを、県社協広報担当がレポートします。

基調講演:デジタルとデザインを活用した採用戦略~福祉人材の育成と定着~(博愛会)

好事例発表:出会い方のデザイン(ながよ光彩会)

好事例発表:人材確保の取組(なごみ会)


基調講演:
デジタルとデザインを活用した採用戦略 ~福祉人材の育成と定着~

 

講師:

社会福祉法人博愛会(大分県)
第一博愛寮施設長 釘宮謙悟 氏

●悪循環の採用活動からの脱却

採用できない → 定着しない → 育たない の悪循環に陥り、求人広告やチラシにお金が消えていっていたが、藁にも縋る思いで参加した採用活動セミナーで「YouTubeのショート動画を毎日3本投稿」という手法に出会い、継続することで効果が出た。
・最近の求職者は動画で「予習」してきてくれる
・新規事業なども隠さず動画で出すことで面接時の理解度もあがる

効果的な動画を撮るためには「魅力的な職員」「魅力的な仕事」が必要と気づき、「映える仕事(事業,場所,人)」を逆算して作りだすようになった。
 ・デザイナーと一緒におしゃれな職場を作った(カキ小屋、キャンプ場、うどん店)
 ・入所系施設の職員室もスタバ風にリノベーション

就労継続支援B型事業所の拠点でもある「府内のおうどん

> 公式ブログからもおしゃれなインテリアであることがうかがえる(第一博愛寮)

●動画&デザインを通じた採用戦略

「高いデザイン性」「魅力的な職員」「やりがいのある仕事」をYouTubeショート動画で発信し続けている。
毎日見てもらえば自分たちの魅力が伝わり、「施設見学に来てもらえれば入社してもらえる」という状態にまでなったと自負している。
ウェブサイトや広報誌制作では、プロの手を借りるべきところは予算をかける。
特に写真の質は重要で、プロカメラマンに依頼し2日間で全施設を回ってもらい、様々なシーン、人を撮ってもらった。

ウェブサイトには笑顔の写真があふれている

年2回発行の広報誌は、学生求職者を読者と想定し、フリーペーパーのように読みたくなるものを目指している。
同時に、頑張る職員の笑顔もたくさん掲載し、職員のモチベーションアップも狙っている。

●さらなる工夫の数々

・シンプルな法人理念『やさしさ日本一の社会福祉法人』の採用でやさしい新人増
・新しい取り組みをどんどん進めて『仕事に飽きさせない』
・大学側からのアドバイスに従い採用説明会でのブースの作り方を改善

●感じた愚直さとエネルギー〔県社協広報担当より〕

注目したいのは、ネット戦略のプロや大学の教授、就職課職員からの「教え・助言」を、愚直に実行に移して成果をあげている点。その柔軟性と継続力は、採用に悩むすべての施設・事業所の皆さんに真似していただきたいと感じました。

そして、釘宮氏の講演はとにかく力強くてスピーディー。求職者へ、聴衆へ、「伝わって欲しい」という想いのエネルギーを受け取りました。


好事例発表:
出会い方のデザイン(ながよ光彩会)

発表者:社会福祉法人光彩会 理事長 貞松徹 氏

みんなのまなびば み館

法人として元々やっていたのは、【高齢者福祉事業】である特別養護老人ホームかがやき。
そこに【公益事業】として『みんなのまなびば み館』を加えた。
み館は、多世代間交流、多国籍交流の空間で、「私」と「福祉」のクロスポイントとして設定した。
地域の人材との接点でもある。み館で出会った方々を、就労へつなげている。

み館の施設にわざと段差を作り、車いすの方などの介助が必要な構造にして「介助体験」ができるようにしている。そこでの介助が周囲の称賛につながり、「社会の役に立つ体験」ができる仕組み。

もう一つの取組 GOOOOOOOD(グッド)

グッドは【障害者福祉事業】で、就労支援B型事業。
グッドステーションとしてJR長与駅での清掃や乗降介助などを行いながら、コーヒーやグッズを販売し、「福祉でまちの困りごとの解決」をめざしている。

就労支援事業としては、介護の周辺業務(清掃、洗濯、洗車など)を担ってもらうことで、介護人材の確保にもつながるし、この事業で出会った就労者が高齢になれば、当法人の施設への入所も見込める(入居者確保)。

月に1時間~177時間の就労で、働き方を選択できる環境をつくっている。
障害や年齢、体力に関わらず働きつづけられる枠組みを構築中。

●戦略的な展開で未来をつくる〔県社協広報担当より〕

講演のタイトルにもあるように、働き手や入居者と『どう出会うか』をデザイン(設計)し、未来を見据えた法人経営をされていると感じました。

継続・持続可能な経営を目指して、戦略を立てる重要性を学びました。


好事例発表:
人材確保の取組(なごみ会)

発表者:社会福祉法人なごみ会 理事長 山口和洋 氏

五島市にて「かけはし木場」「かけはし福江」を中心に介護事業を主として運営。
一般的な社会福祉法人で法人後見事業を行っているのは全国的に珍しく、なごみ会の特徴のひとつ。

中期経営計画(3か年)を作って活用。現在、第三期の2年目。
基本理念や事業目的の明確化ができ、自分(経営者)の備忘録にもなる。

おもな人材確保の取組

  • ノーリフティングケア(職員自身の安全や健康のため)
  • ユマニチュード的ケア(優しさを効果的に伝える技術)
  • 介護ロボット・ICT機器(見守りカメラ、インカムなど)
  • ヘルパー手当
  • ケアマネ歩合手当
  • 採用時より年休10日間
  • 誕生日プレゼント
  • なごみ丸(釣り船保有、毎月釣行、船舶免許保有者へは貸出可)
  • クックフリーズシステム
  • 業績連動型賞与

などなど

チャレンジには課題も多い

クックフリーズシステムは、提供する食事を作ってすぐに凍結して、必要な都度解凍するやり方。
作業スタッフが半減できるなど効率的だが、これまでとの変化が大きく現場が混乱。手探りで導入中である。

業績連動型賞与は「事業所ごと」で目標収益率を設定しスタートしたが、プレッシャーを感じるという職員からの声もあったため、「法人全体」での目標に変える。

●がんばる経営者の姿〔県社協広報担当より〕

今回の発表の副題は「思う通りにいかない経営者の苦悩」。

ただ、「職場に漂う閉塞感を打破したい」「職員にやりがいや誇りを持ってほしい」という想いで日々奮闘されている姿が思い浮かぶ発表で、聴講されていた多くの経営者の皆さんにエネルギーを与えてくれたと思います。




福祉・介護施設のみならず、日本全体で人手(人材)不足が深刻化しています。
今回のように時代に合った研修会は、経営者の皆さんのニーズに沿った企画だと感じました。

長崎県社協の広報誌「ながさきのふくし」においても、『人材戦略』というページを設け、経営者・管理者の皆さんに向けて、人材の確保、育成、定着に役立つ情報を掲載しています。
ぜひご覧ください。
 > 広報誌「ながさきのふくし」

投稿日時|2025年7月4日8時59分